卵巣がんとは|自覚症状が乏しいために早期診断が難しいがんです

浅川 恭行浅川 恭行 医師浅川産婦人科医院 院長

卵巣がんとは

自覚症状が乏しい

卵巣は腹腔内(お腹の中)にあること、また自覚症状が乏しいことから卵巣がんが発生してもなかなか早期診断が難しいがんです。

実際に卵巣がんと診断された時にはすでにIII、IV期の進行がんであることが約半数であり、このことからも早期診断が容易ではないことが伺われます。その結果、卵巣がんの罹患数は約8000人/年であるものの、死亡数は約5000人/年と、死亡率の高いがんと言えます。

卵巣がんとは

遺伝子の生まれながらの異常

また近年、ある種の遺伝子(BRCA1/2)の生まれながらの異常があると、乳がんや卵巣がんになりやすいことが判明し(遺伝性乳癌卵巣癌症候群:HBOC)、某有名ハリウッド女優が予防的乳房切除を行ったことでも話題になりました。

卵巣がんの診断

卵巣がんの初発症状には、腹痛、腹部違和感、腹部膨満感、不正性器出血などがありますが、無症状である場合も多いという点が極めて重要です。

卵巣がんの診断は、超音波検査、血中腫瘍マーカー検査(CA125など)、画像診断(MRI、CT)を行い、卵巣がんの疑いが強い場合は、早期に手術を行い、摘出したものを病理組織検査することにより、卵巣がんの診断が確定します。

画像診断(MRI、CT)

言い換えれば、手術等により細胞や組織を取ってこなければ、卵巣がんの確定診断はつきません。さらに卵巣がんは組織型(顕微鏡で見たがんの顔つき)が非常に多彩で、それぞれの組織型により、がんの進行する速さや、抗がん剤の効きやすさなどが大きく異なり、また血栓塞栓症を併発することが多い組織型があるなど、しばしば治療方針に大きな影響をおよぼします。

卵巣がんの治療

卵巣がんに対する治療は、手術療法と化学療法(抗がん剤治療)の集学的治療となります。

卵巣がんの手術療法

前述のように卵巣がんが疑われる症例では、まず手術を行い、卵巣腫瘍の確定診断と良性か悪性かの診断を行い、そして病巣を完全に摘出または最大限に腫瘍を減らすように摘出します。

卵巣がんの基本術式は、子宮全摘出術、両側付属器(卵巣と卵管)摘出術、大網切除術です。また卵巣がんの治療にあたっては、進行期が予後と強く関連することが明らかになっています。

そこで手術にあたっては正確に進行期を決定する目的で、基本術式に加えて後腹膜リンパ節(骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節)の郭清(または生検)、腹腔細胞診、腹腔内各所の生検を行います。

卵巣がんは早期のうちから腹腔内に病巣が進展することがあることから(腹膜播種とよびます)、本来卵巣が存在する骨盤内だけでなく腸管や他の腹腔内臓器、さらに横隔膜まで進展することがあります。

そのような場合、腸管を合わせて摘出したり、肝臓や脾臓や横隔膜の一部を切除するなど、摘出する臓器が広範囲におよぶことがあります。特に腸管を合併切除した場合は、人工肛門が必要になることもあります。このような徹底的な腫瘍減量手術は、非常に身体に負担の重い(侵襲の大きい)手術と言えます。

しかしながら、卵巣がんの予後は、初回手術後に残存する腫瘍(手術で摘出できなかった)の最大径が1cm未満になることとも強く関連します。よってわれわれは進行卵巣がんに対しては、最大限に病変を摘出するように精一杯努力します。

一方、卵巣がんの診断時に全身状態が非常に悪く(お腹に大量の水が貯まるなど)、徹底的な腫瘍減量手術に耐えられない患者さんがしばしばいらっしゃいます。

その場合は、無理に手術を行うことにより、生命予後を悪化させる可能性があるので、抗がん剤治療を先行させ(これを術前化学療法と言います)、数コース投与して病勢を制御した後に、徹底的な腫瘍減量手術を行う場合もあります。

卵巣がんの一次化学療法

手術後、早期がんの一部を除いて化学療法(抗がん剤治療)が必要です。卵巣がんに対して最初に使用される抗がん剤は、タキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法です。

パクリタキセル(T)とカルボルラチン(C)の併用療法(TC療法)が標準治療です。パクリタキセルの投与法を改良した治療法(dose dense TC療法)や、パクリタキセルの代わりにドセタキセル(D)を併用した療法(DC療法)が行われる場合もあります。

ベバシズマブは抗血管新生作用を持つ分子標的薬ですが、平成25年11月に日本においても卵巣がんの保険適応が追加され、ようやく日常臨床で使用できるようになりました。進行した卵巣がんの場合、TC療法にこのベバシズマブ(Bev)を併用する治療法(TC+Bev)も行われます。

また卵巣がんのうち、10歳代~20歳代の若い女性に見られる悪性胚細胞腫瘍の場合は、ブレオマイシン(B)、エトポシド(E)、シスプラチン(P)の併用療法(BEP療法)が標準療法です。

化学療法の副作用対策

ドクターが説明します

化学療法では、骨髄抑制とよばれる血液毒性(貧血、白血球や血小板が減ること)や、嘔気・食欲低下などの消化器症状、手足のしびれなどの末梢神経障害、アレルギー反応などの副作用が生じます。

そこで化学療法を円滑に受けることができるように、血液毒性を早く改善する薬や制吐剤(吐き気を抑える薬)などを使用して副作用の程度を軽減するように努めます。

卵巣がんの二次化学療法

卵巣がんは他の臓器がんよりも、再発する率が高いと言われています。初回治療が終了した後も、厳重に経過観察をする必要があります。不幸にして再発した場合、治療終了からどのくらいの期間を経て再発したか、再発した部位はどこか、再発した病変の個数はいくつか、などにより治療方針が大きく変わります。

手術療法が選択される場合もありますが、多くは化学療法が選択されます。

その場合、

  1. 初回治療と同様の薬剤(タキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法)が再度投与される場合、
  2. プラチナ製剤と他剤(ゲムシタビンもしくはリポソーム化ドキソルビシン)の併用療法を行う場合、
  3. 単剤療法(プラチナ製剤、タキサン製剤、ゲムシタビン、リポソーム化ドキソルビシン、トポテカン、イリノテカン、エトポシド、これらのうちの一種類のみを投与)を行う場合、

などのパターンがあります。さらに、これらの薬剤にベバシズマブを上乗せして投与する場合もあります。