ヒトパピローマウイルス(HPV)について説明します

浅川 恭行浅川 恭行 医師浅川産婦人科医院 院長

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

ヒトパピローマウイルス(HPV)はヒトにのみ感染するウイルスで、100種類以上あることが知られていますが、女性の生殖器関連のHPVは約40種類が存在すると言われています。

さらにこれら女性生殖器関連のHPVのうち、子宮頸がんとの関連の程度によってハイリスクHPVとローリスクHPVに分類されています。ハイリスクHPVは子宮頸がんの原因ウイルスであり、13種類が知られています。

その中でHPV16型と18型はハイリスクHPVの代表的なものであり、これらは子宮頸がんの約70%から検出されます。

さらにハイリスクHPVは子宮頸がんの原因ウイルスとしてだけではなく、口腔がん、咽頭がん、外陰がん、腟がん、肛門がんなどにも関わりがあることが報告されています。

ローリスクHPVのうちのHPV6型や11型は、良性腫瘍である尖圭コンジローマの原因となります。

HPVはどのようにして感染するか

HPVはどのようにして感染するか

HPVの感染は多くの場合、HPV感染者との性交渉によって起こります。コンドームの使用は感染を予防するためにある程度有効ですが、HPVは手指を介しても感染します。

大切なことは、HPV感染は女性にはよく見られるありふれたものであることです。女性の約80%が生涯に一度はHPVに感染すると言われています。またハイリスクHPVに感染しても、その90%以上は体内から自然消失するため、子宮頸がんに進展するのはごくわずかであることも知られています。

前がん病変である異形成やがんにまで進展する症例は、ハイリスクHPVが持続的に感染することが「引き金」になっていると考えられています。

さらに、喫煙、経口避妊薬(低用量ピル)の服用、他の性行為感染症、経産回数(お産をした回数)、性交のパートナー数などがHPVの持続感染にかかわる危険因子として知られています。

HPV検査について

HPV検査について

日本においては、多くの自治体検診(公費検診)を中心に子宮頸がん検診では、従来細胞診と呼ばれる方法で一次検診が実施されています。

しかしながら、国外のみならず日本での研究によって、細胞診と同時にHPV検査を併用することによって、検診の感度が高くなる、つまり異形成などを見つける頻度が高くなることが明らかにされています。

また子宮頸部異形成(前がん病変)の患者さんの中で、HPVのハイリスク型が検出される場合は検出されない場合に比べて病変が自然治癒・消失しにくいことが知られています。

最近の日本における研究データによると、HPV16,18,31,33,51,52,58型のいずれかが陽性の症例では病変が消失せず存続しやすかったという結果が示されています。

このように子宮頸部異形成でハイリスクHPVが陽性の場合、病変が持続しやすい傾向があると考えられます。

HPVワクチンのメリット

HPVワクチンのメリット

日本においてはHPV 16型と18型に対するワクチン(2価ワクチン)、またHPV 16型と18型に加えて6型と11型の4種に対するワクチン(4価ワクチン)が承認されています。

HPVワクチンを接種することによって、HPV16、18型の持続感染と、これらHPVに関連する子宮頸部中等度~高度異形成、上皮内がん、上皮内腺がんの発症をほぼ100%予防できることが実証されています。HPVワクチンが普及した場合、子宮頸がんの約70%が予防できると期待されています。

ワクチンの接種方法は2価ワクチン、4価ワクチンいずれも6ヶ月間に3回の接種が必要とされています。接種対象年齢は米国においては、9~26歳ですが、最も推奨されている年齢は11~12歳となっています。なおワクチンはHPVウイルスに対する治療効果はありませんが、HPVが一度感染しそれが消失した後の再感染を防ぐことはできるとされています。

またHPVワクチンを接種しても、子宮頸がん検診は従来どおり必ず受ける必要があります。現行のHPVワクチンはHPV16型と18型の感染を予防するために有効ですが、逆に言えばこれら以外の型のハイリスクHPVの感染を、完全に予防することできないのです。

よってHPVワクチンを接種したからと言って、子宮頸がん検診を省略することは勧められません

日本における子宮頸がんとHPVワクチンに関する今後

日本における子宮頸がんとHPVワクチンに関する今後

近年、子宮頸がんは20歳代~30歳代の若年層の女性が罹患するがんの中で、急速に増加しています。よって10歳代~20歳代の女性へのHPVワクチン接種の意義が極めて大きいと考えられます。

本邦では、子宮頸がんを予防する目的で2価ワクチンと4価ワクチンの両者が定期接種となりました。

しかしその後、HPVワクチン接種後に生じた「副反応」など、様々なワクチンによる身体への負の影響が報道されてきました。副反応の多くは失神、頭痛、めまい、ワクチン接種をした部位の発赤や痛みなど軽症のものです。

これらのなかで痛みに関しては、重篤な副反応として「複合性局所疼痛症候群」(難治性神経因性疼痛)と考えられる症状も報告されました。

また、ワクチンを接種した後の「失神」が他のワクチンに比べ頻度が高い、といった指摘もなされました。

このようなHPVワクチン接種に対する否定的見解が、一般の方々や一部のマスコミから起こった結果、本邦においてはHPVワクチンの積極的な勧奨(ワクチンの接種を積極的には勧めない)は中止され、今日に至っています。

では国外ではHPVワクチンの安全性や副反応の問題はどのように考えられているでしょうか。

HPVワクチンについて、2013年6月に世界保健機構(WHO)からその安全性について大きな心配はないことが発表されています。また2013年8月に国際産科婦人科連合からも世界保健機構と同様の発表がなされています。

2014年3月19日、自民党参議院政策審議会においてHPVワクチンについて各学会の代表者らから意見聴取が行われました。

この政策審議会では、日本産科婦人科学会や日本小児精神神経学会、そして難知性神経因性疼痛を研究する医師から、子宮頸がんで毎年3,000人の患者が死亡していること、またHPVワクチンによって子宮頸がんが激減することが期待できることが報告され、あらためてHPVワクチンの有効性が確認されています。

そしてHPVワクチンの接種を勧めるべきとする意見と、副反応を詳細に検討する方がよいとする意見など、意見交換が行われました。

現在のところ、HPVワクチンを接種することによるメリットと副反応などのリスクをよくお考えになり、医師と相談のうえ接種するか、を決めていただくことが重要と考えられます。

HPVワクチン接種の実際

子宮頸がん予防ワクチンのうち、2価ワクチンは初回および、その1ヶ月後と6ヶ月後の合計3回の接種、また4価ワクチンは初回および、2ヵ月後と6ヵ月後の合計3回の接種を行います。

3回接種することによって、十分な予防効果が得られるとされています。但し、最近国外の報告では、HPVワクチンの接種は2回でも予防効果が得られるとする報告もみられます。