知らなさすぎる身近に潜む食中毒の病原体

腰原 公人腰原 公人 医師かがやきクリニック川口院長

よく知ろう!身近にある食中毒のこと

夏季は細菌性の食中毒が増える時期

例年、梅雨の時期になるとカンピロバクター腸炎の患者さんが多くなってきます。そして夏場に多いことが知られている腸炎ビブリオなど、夏季は細菌性の食中毒が増える時期です。

知らなさすぎる身近に潜む食中毒の病原体

上記の表はこの3年間にクリニックを受診された生肉を食べた後に下痢などの腸炎症状を呈した患者さんたちのケースをまとめたものです。見てもらうとわかりますが、潜伏期が長いケースが多く、診察の時に2週間ほど前まで遡って具体的に聞いてあげないと原因食材がみえてこないという可能性が高いという点に注目してください。

食中毒病原体の主な原因食材と潜伏期

特にカンピロバクターは、原因食材(多くは生のとり肉)を食べてから症状がでるまでの潜伏期が長いのが特徴です。参考までに代表的な食中毒病原体の主な原因食材と潜伏期です。

 知らなさすぎる身近に潜む食中毒の病原体

そしてカンピロバクターでは、多くの先生方が下痢の患者さんに好んで使うクラビットなどのキノロン系の抗菌薬が約半数で耐性化、すなわち内服しても効かなくなっているのです。その代わりにマクロライド系の抗菌薬を使わなければなりません。

飲食店での食中毒発生が増えてきた理由

過去42年間の食中毒発生原因施設です。
過去42年間の食中毒発生原因施設です。

ここ十数年は飲食店での発生件数が増えています。なぜでしょうか?家庭や旅館などにおける件数が減っており、食材の保存や衛生管理が良くなっている背景が見えてきます。それに比して飲食店が増えているのは、食の多様化によるものと思われます。

B級グルメの人気などユッケなど生肉を食べる人、特に若い人が多くなってきたことが影響しています。食肉におけるカンピロバクターの汚染状況です。

知らなさすぎる身近に潜む食中毒の病原体

鶏肉や牛のレバーなどは汚染されていることが多いことがわかります。その結果、食中毒件数においてカンピロバクターが平成15年にサルモネラ菌に代わって最も多くなり、ここ数年は冬場のノロウイルスと肩を並べる件数で推移しています。

知らなさすぎる身近に潜む食中毒の病原体

そして不気味に増加してきているのが、昔からスルメイカやサバなどに寄生していることが判っているアニサキスです。

アニサキス

平成29年の集計では、カンピロバクターに次ぐ多さです。この背景には平成24年に食品衛生法が改訂されて、アニサキスなどの寄生虫による食中毒の保健所への届け出が義務化されたことで、統計的に把握できるようになったことが大きいようです。ただし魚の流通自体も多様化して、冷凍されずに生での取引が増えてきていることにも注意が必要です。

そしてこれらの病原体の中に聞きなれないという名称に気がついた人もいると思います。8月から11月にかけて、主に養殖ヒラメを食べた後、数時間して一過性の下痢や嘔吐を発症させることがあります。

クドア

ブリやサケに寄生する別の種類のクドアの場合は、シストが肉眼的に観察できますが、クドア・セプテンプンクターの場合は肉眼ではわからず、調理過程で取り除くことができません

また近海産のクロマグロ、特に若魚であるメジマグロから、別の種類のクドアが検出されています。最後に鶏や牛よりも安全と信じられているさくら肉(馬)ですが、ザルコシスティス・フェアリーという寄生虫によって下痢などの症状がでることが判っています。

予防法について

予防法としてはマイナス20度48時間の凍結処理が活用されています。しかし生で提供される肉を食べた人から、腸管出血性大腸菌ではない病原性のある大腸菌が、初めの表の中に検出されている方もいます。

平成26年に馬刺しを食べた11都県に及ぶ88名から、腸管出血性大腸菌O157が検出された事例も福島県衛生研究所から報告されたことがあります。

この事例では馬の糞便等から菌は検出されていませんが、生肉を食べるということは生産から流通過程で菌が混在したときに、口に入る直前での加熱滅菌という食の安全を担保する最も確実な衛生的一手段が欠けていることを常に念頭におかなければなりません。