病院でもらう時代遅れの総合感冒剤
腰原 公人 医師かがやきクリニック川口院長対症療法として病院でもらう総合感冒剤について
「風邪ですね、薬出しておきますよ。」と医師から、総合感冒剤をもらったことがある方は多いと思います。患者さんから「いつももらっている風邪薬ください。飲むと良くなるんです。」と言ってクリニックへ来られる方もおられます。
風邪の原因はほとんどがウイルスで、インフルエンザウイルスと違って、いわゆる風邪、すなわち普通感冒を起こすウイルスに対する根本的な治療法はありません。西洋医学的な治療は対症療法、すなわちご本人の感じている辛い症状に対して、その症状を和らげる治療につきるのです。
その結果、ウイルスと戦う免疫力をアップしていくために必要な食事や睡眠などの生活の基本の質を維持していくことがポイントとなります。
それではその対症療法として病院でもらう総合感冒剤(図1)の中身はご存じでしょうか。
図1
知らない人がほとんどだと思います。中には成分を意識しないで処方している医師もいるようです。
薬に含まれる成分について
ときにこれらの総合感冒剤とさらに解熱鎮痛剤を1日3回常用量で処方されて飲んでいる方が来られることがあります。この薬には4つの成分が含まれています(図2)。
図2
サリチルアミド
そのうちの一つ、サリチルアミドは抗炎症剤で、アスピリンに近い薬剤のため、インフルエンザの可能性が否定できない場合に用いると、子供ではライ症候群(肝障害や急性脳症)を起こす恐れがあります。
プロメタジンメチレンジサリチル酸塩(ピレチア)
今時単独では使われなくなった古い薬剤です。そして特に問題なのが、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩です。別名ピレチアという抗ヒスタミン剤です。
この成分が含まれているのは、感冒に伴う鼻水などの鼻炎症状を和らげる目的のためです。抗ヒスタミン剤は、今から50年以上前に開発されました。ただ飲むと眠くなる、すなわち血液脳関門を通過しやすく、脳にも作用が及びやすいのです(図3)。
図3
そしてこの第1世代の抗ヒスタミン薬の特徴として、抗コリン作用を併せ持つことです。アセチルコリンという神経伝達物質がその受容体に結合するのを阻害する働きがあります。
その結果、眠気、のどの渇き、便秘、尿が出にくくなるなどの副作用がでやすいのです。そこで、これらの副作用を軽減する目的で開発が進められて、現在は鼻炎症状には花粉症のシーズンを中心に第2世代の抗ヒスタミン薬が汎用されています。
総合感冒剤にはこのピレチアによる眠気を抑える目的で、さらにカフェインが入っています。試験中にいつも飲むコーヒーを1日3杯600ml(含まれるカフェインは100ml中約60mg)=カフェイン360mg、さらに寝てはいけないとエナジードリンク2本(カフェイン含量:眠眠打破1本=120mgとレッドブル1本=80mg)を、そして運悪く風邪を引いて総合感冒剤PLを1日3包(カフェイン含量計180mg)飲んだとしたら、気が付くと1日カフェイン量は740mgにまで及びます。
多くの人は短時間に1000mg摂らないと中毒にはなりませんが、個人差があり、中にはより少ない量で吐き気や発熱、不整脈、そしてけいれんや精神錯乱などの中毒症状にまで至ることもあります。基本的にはカフェインは1日400~500mg以下にすべきです。
総合感冒剤について思うこと
最後にこのピレチアですが、現在医療現場で単独で使われるのは、抗コリン性パーキンソン作用を活かして、抗精神病薬投与によって、「足がむずむずしてじっとしていられない。」などのアカジジアに対して、その症状を鎮める目的で処方されます。
なぜ、風邪治療の本命である対症療法で、ターゲットとする症状に対してピンポイントからはずれる作用を有する薬剤を敢えて飲まないといけないのでしょうか。
さらに高齢者はこの薬の肝臓での代謝が落ちて、蓄積しやすく、意識がもうろうとしたり、興奮したり、心室細動などの致死的不整脈も出やすくなります。
日本版ビアーズ基準(米国で高齢者には使用を避けるべき基準として用いられてきた基準を参考に2008年に日本版が発表)においても、使用時の重篤度は高いとして、抗コリン作用の弱い第2世代の抗ヒスタミン薬、すなわち抗アレルギー薬が勧められています。