治せる認知症を見逃すな! 原因を治すことで認知症の症状が消失する患者さん

腰原 公人腰原 公人 医師かがやきクリニック川口院長

原因を治すことで認知症の症状が消失する患者さん

認知症、それは進行性で根本的に治す薬はありません。アリセプトなどの薬は一時的な進行を抑えても、根本的な治療法ではありません。

ただし、それら進行性の認知症と思われて外来を受診される患者さんの中に、そうではない可逆的な(原因を治すことで症状が消失する)認知症の患者さんが潜んでいることがあります。今回はそのうちの2例をご紹介します。

1例目の患者さん

1例目は以前勤務していた病院で入院してきた患者さんです。70歳の男性で、ここ2か月ほどで認知症が進行したため、神経内科外来を受診されていました。言葉は不明瞭で聞き取りにくく、何かもやがかったような印象でした。

家族の話では最近、無気力になり食欲低下もありました。外来で行われていた採血結果を見ていて、「おや?」と思わせる結果を見つけました(図1)。
治せる認知症を見逃すな! 図1

車いすでぐったりして入院してきた状況で、特に筋肉に関係する病気の既往歴もなく、筋肉痛や外傷もないのに、なぜかCPK(クレアチニンフォスフォキナーゼ)という酵素が高かったのです。

この酵素は骨格筋や心筋などの筋肉に存在する酵素で、筋肉に関係する疾患で上昇します。ただ、全身の代謝が落ちる甲状腺機能低下状態で、ムコ多糖が筋肉組織に蓄積することでこの酵素が血中に逸脱して、その値が上昇することがあるのです。

早速入院時検査に甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを行いました。

案の定、甲状腺ホルモンが低下、甲状腺刺激ホルモンが上昇という甲状腺機能低下症と診断できました。その結果、意欲や食欲低下、そしてまさに認知症と診断されるほどの思考能力や発語の鈍麻にまで至っていたのです。

その後、甲状腺ホルモン製剤を投与することで、徐々に食欲も回復し、退院時には笑顔で話しができるまで回復したのです。

2例目の患者さん

2例目はもの忘れで現在のクリニックの外来を受診された77歳の患者さんです。初診時のMMSE(ミニメンタルステート検査)は28点とほぼ正常でした。

まずはサプリメントを使いながら外来フォローとしたのですが、その4か月後のMMSEは22点まで低下、しかも最近、バランスを崩して転倒しやすくなったとのことでした。そこで頭部CTを行ったところ、特発性正常圧水頭症が原因と判明しました(図2)。
治せる認知症を見逃すな! 図2

主な症状は、歩行障害、認知症、そして排尿障害になります(図3)。
治せる認知症を見逃すな! 図3

めずらしい病気かと思うかもしれませんが、実は有病率でパーキンソン病より多いと言われており、65歳以上の高齢者の1.6%、約56万人の疑い患者がいると推定されます。治療方法は髄液シャント術を脳外科で受けることになります(図4)。

その結果、なんらかの症状の改善が得られるのは50~90%と言われています。

治せる認知症を見逃すな! 図4

認知症治療の今後

しかし、実際に治療を受けられている患者数は10~50人に1人と言われているのです。確かにアルツハイマー型認知症を合併しているケースもあり、術後、認知症が改善されない例もあります。

しかし、診断後早期に手術を行った群と待期後に手術に至った群における改善率に優位な差があることも判ってきました。昔は手術に伴う合併症も多く、手術そのものが敬遠されがちでしたが、現在は2004年にガイドラインが作成され、さらに多くのエビデンスを踏まえて2011年に改訂されるに至っています。

高齢化社会を迎えている今、手術に対する積極的な姿勢をすでに複数の手術を手掛けている一部の脳外科を除く全国の脳外科の医師には望みます。