貧血、「年だから仕方ない」、、、それは危険!

腰原 公人腰原 公人 医師かがやきクリニック川口院長

原因不明で輸血を受けていた女性

72歳の女性です。市内の総合病院に貧血で入院、精査して原因が特定されず、輸血を受けて退院となりました。しかし、退院しても貧血気味で体動時のめまいを感じていました。訪問診療で伺ったときに検査結果を見て、貧血の原因は一目瞭然でした。

貧血

貧血とエリスロポエチン濃度

赤血球系以外の白血球や血小板に異常がない正球性の貧血で、かつ腎機能低下を示すCre(クレアチニン)が高いのです。念のため、血中エリスロポエチン(腎臓で作られる造血因子ホルモン)を測定しました。

その結果は検査会社が設けている基準値内でした。これはあくまで貧血のない腎機能が正常の健康人で測定された血中濃度の目安にすぎません。もし貧血があれば(ヘモグロビン濃度が低い)正常な腎機能を有する人の場合、エリスロポエチンというホルモンは反応性に血中で増加して(基準値を超えるほどに)、骨髄に対して赤血球を作るよう刺激を一層与えるものです。

しかし、腎機能が低下しているとこのエリスロポエチンが敏感に反応しないのです。エリスロポエチンの反応性は、経験を積んで来れば読めるようになりますが、簡易的にはヘモグロビンが10g/dl以下でも血中エリスロポエチンが50U/L以下、もしくはヘモグロビが11g/dl以下でも各検査会社の基準値内にとどまっている場合には、エリスロポエチンの反応鈍麻、すなわち腎性貧血と診断できます。

貧血とエリスロポエチン濃度

貧血の分類

貧血の患者さんを診たときに赤血球の大きさで分類し、小球性は鉄欠乏、正球性は急性出血か溶血、そして大球性はビタミンB12か葉酸欠乏を疑って検査をします。

貧血の分類

腎性貧血の機序

それでも異常の原因が見つからないと、高齢者だと、「年だから多少の貧血は病気ではないですよ。」と説明されるケースが案外と多いのです。日頃から易疲労感を感じている患者さんも「年だから」と納得してしまうのです。

腎性貧血は決してまれな疾患ではありません。先ほどの赤血球の大きさ分類では、正球性と大球性になることがほとんどです。理屈で考えれば、造血因子の不足であれば正球性のみで矛盾しないのではと、ところが腎不全の病態では赤血球寿命が短縮し、その分、幼若な赤血球(若い血球は大きめ)の血液中での割合が増えることになり、大球性に傾くことがあります。

腎性貧血の機序

腎性貧血はまれな疾患ではありません

腎性貧血は、名前が示すように腎機能低下に伴い発症患者は増えます。特に糸球体ろ過量であるeGFRが60を切ると急激に増えます。ところが注意が必要です。この値が正常な人のなかにも4%程度の患者さんが潜んでいることです。

腎性貧血はまれな疾患ではありません

腎性貧血の治療で期待できる効果

そしてこの糸球体ろ過量は通常は採血したクレアチニンの値から計算式で推定されて出されます。そのため予測(estimatedのe)が先頭に付くのです。計算式のもとになるこのクレアチニンがまた曲者です。筋肉由来の酵素のため、筋肉量が少ない痩せた老人などでは血中濃度が低くなります。

その結果、本来腎機能が低下していても見かけ上、予測糸球体ろ過量eGFRが高く、正常になってしまうのです。ではどうすればよいのでしょうか?出血やビタミン類の不足のない貧血の人を見たら、疑ってかかるべきです。腎機能は正常でも尿蛋白が陽性ならなおさらです。

確定診断ができたら、エリスロポエチンというホルモンを注射で補充する治療を行います。治療開始まもなくは2週に1回の注射が必要になりますが、患者さんに必要な接種量が定まれば、月1回の注射でコントロールが可能になります。注射で貧血が改善されることで、身体機能、活力などの健康度がアップします。

腎性貧血の治療で期待できる効果

CRA (cardio-renal anemia )症候群:心腎貧血症候群

最初に示した患者さんも治療の結果、めまいやだるさが消失しました。外来で貧血を合併していた認知症の患者さんでも、認知症の治療薬を使いながら、エリスロポエチンの補充療法を並行して行い、活力や認知機能の改善を認めており、認知症の薬の効果か、貧血の改善効果なのかが判断に迷う方がおられます。

そして貧血状態の持続は、体の欲する酸素運搬能を補てんするため、心臓に一定時間により多くの血液を送らさせる過重労働を課すことになります。心不全が進行することで腎の血流低下、腎間質の線維化の進行、そして腎機能が悪化。腎機能低下に伴い貧血が進行し、その結果、心臓への負担が増すことになり、さらに心不全を進行させます。

CRA (cardio-renal anemia )症候群:心腎貧血症候群

貧血を改善させることで、心臓の駆出力の改善やうっ血性心不全での入院回数の減少、そして腎機能の悪化のブレキーをかけ、透析導入率を2年間の観察で1/3以下程度に抑えた報告もあります。

なぜか一般的にあまり知られていないこの腎性貧血の患者さんは、全国で100万人以上はいるまさしくコモンディジーズ(日常的に高頻度に遭遇する疾患)と言えます。これからより高齢化社会を迎える中で、この貧血の治療が、心不全や腎透析、そして認知症の病態改善のキーポイントとなっていくでしょう。