健康診断で心電図異常を指摘されたら、、、【健康な人ほど、年に一度は健診を受けましょう】

椎木 俊明椎木 俊明 医師椎木内科循環器科 院長

心電図をとる意味について

心電図は健診や人間ドック項目に含まれていますが、若い人の場合、健診で心電図をとらないこともあります。しかし生まれてから一度も心電図をとったことがない人はいないでしょう。例えば小学校に入学するときや中学、高校でも健診で最低一度は必ず心電図をとります。

また入社時健診でも心電図をとりますが、その後は会社によっては40歳まで心電図が健診に含まれないこともあります。そしていざ健診で心電図をとって返却されたコメントには素人にはとても理解できないような専門用語が書かれているのを目にした方も多いのではないかと思います。人間は知らないことを書かれるととても不安になります。

また指導欄に循環器内科で要精密検査必要と書かれると更に不安が増幅します。そして不安な顔をして医療機関を受診されます。循環器内科ではそのような要精密の患者さんが多数受診されますが、その大多数は経過観察であまり心配ない場合がほとんどなのです。

健康診断で心電図異常を指摘されたら

健診とは簡単な心電図のスクリーニングで異常を指摘して二次検査で本当に治療を必要とする方をふるい分ける性質のものですので、循環器内科での精密検査では要経過観察が大半であることは当然のことなのです。

そしてその中からおよそ1-2割程度の本当に治療をしなければならない患者さんをみつけることが重要なのです。その意味からすると高血圧で要精密検査を指摘され要治療になる患者さんの方が遥かに多いのです。

要精密検査と言われたら

では心電図で要精密検査を指摘される具体例に入ります。まず健診心電図で重要なものは虚血性心疾患不整脈の二種類があります。虚血性心疾患とは心臓の血管である冠動脈が細くなる狭心症や閉塞する心筋梗塞があります。

健診を受けるくらいですから心電図をとるときに胸痛などの自覚症状はまずありません。狭心症や心筋梗塞は症状がある場合は緊急性を要しますが、症状がない場合はまず一呼吸おいてから医療機関に受診されても大丈夫です。

狭心症や心筋梗塞

所見欄には心筋虚血や心筋障害と書かれることが多いのですが、その場合は心エコーなどの精査をしても異常がないことも多いのです。しかしそのように指摘された場合は必ず一度は心エコーなど受ける事をお勧めしています。

なぜなら以前に発症して本人が気づかない心筋梗塞などの虚血性心疾患があるからです。その場合はコメントにQ波とか下壁梗塞疑いとかR波減高などと書かれていることが多いのですが、その中の一部に過去に心筋梗塞を起こしている患者さんが含まれることがありますので要注意です。しかし実際に検査すると異常のない患者さんもかなりいます。

また過去に前胸部痛を経験したことがある患者さんは特に要注意です。更に高血圧や糖尿病や高脂血症を過去に指摘されたり喫煙者も要注意です。まとめれば精密検査で心筋梗塞と狭心症を否定できれば一安心なのです。また左室肥大とか心肥大と書かれることもあり、その場合高血圧による圧力負荷による心臓の筋肉の肥大で将来心筋梗塞などのリスクになりやすいので要治療になることがありますが、実際に心臓超音波で見ると異常ない事もよくあります。

心臓肥大があれば結局は高血圧の治療をして心臓肥大による将来の心臓疾患の予防をすることが重要です。

不整脈について

次に不整脈です。不整脈は範疇が広いので十把一絡げに扱うことは困難ですが、敢えて言えば不整脈による突然死の可能性のある患者さんを見つけ出すのがねらいです。

不整脈について

よく書かれている所見で上室性期外収縮や心室性期外収縮で循環器内科で要精査と書かれることが多いのですが、我々が心臓超音波や24時間心電図をとって精密検査をしても異常がなく要観察の方が大半です。あえて言えば多発性期外収縮や頻脈や徐脈と書かれている場合は要注意のことがあります。その場合は治療が必要なこともあり治療不要でもしっかりとフォローしなければならないこともあります。

また最近のトピックスでブルガダ症候群疑いという所見をよく目にするようになりましたが、これは突然死の可能性がありますので要注意です。実際には要精密で検査してもほとんどの患者さんは異常なしや要観察で本当に治療の必要な患者さんは少数ですが、ブルガダ疑いの場合は必ず精密検査が必要です。

その他では、完全右脚ブロック、完全左脚ブロック、不完全右脚ブロックや1-3度房室ブロックなどと書かれることがあります。この場合も本当に治療が必要な方は少数なのですが精密検査が必要です。

特に完全左脚ブロックと2-3度房室ブロックは心臓に異常があることが多いのでフォローや治療が必要ですが、動悸や息切れや胸痛などの自覚症状がなければ要観察のことも多いのです。大人の不完全右脚ブロックは要観察ですが、小学生で不完全右脚ブロック指摘された場合はときに先天性心臓疾患の可能性もありますので心臓超音波が必要です。

しかし過去の三歳児健診などで異常指摘されていない場合はまず先天性心疾患の可能性は低いのです。その他に時計回転や反時計回転や左軸偏位や右軸偏位の所見がありますが、その中の一部は本当に異常があるのですが大半は要観察のみです。

健康診断を受ける意味

思い当たる範囲で所見を並べてみましたが、心電図異常を指摘されても大半の方は要経過観察で実質異常なしのことも多いのです。しかし最初にも言いましたが、健診はあくまでもスクリーニングですので8割は空振りでいいのです。

本当に治療の必要な1-2割の方を見つけ出すのが健診なのです。よってまず要精密と書かれたら一度は必ず循環器内科を受診して専門医の判断を仰ぐことが大切で自覚症状があれば尚更です。そして要観察ならばまずは一安心ですが、要観察でもほぼ異常なしという場合と要フォローという場合がありますのでその違いについては検査した専門医からしっかりと説明を聞いてください。

健診を受ける意味

健診システムは日本では非常によく機能していると思います。しかし健診は受けてなんぼのものです。何が言いたいかと言いますと、「俺は健康だから健診は受けない」という方がよくいらっしゃいます。

しかし「健診」という言葉は私の解釈からすると「健康だと自負している人が本当に健康であるかどうかを診断」するものだと思っています。

つまりオリンピックと一緒で最高のパフォーマンスをするには日頃の鍛錬も大切ですが、まずは参加しなければ始まらないのです。病気をして時間とお金を費やすぐらいなら年1回1日に費やす時間とお金は安いとは思いませんか?